2015年12月18日金曜日

連載【第一章 ~産みの苦しみ~ その①】

 太陽光発電所を建設するには、第一に場所の獲得をしなければなりません。
日照条件、通年の気象特性、太陽光発電所に及ぶ制約の確認等、多岐に亘る
調査項目をクリアしたエリアで、土地代、若しくは賃料が採算に適う場所を
見つけるには相当の時間と労力を費やします。しかしながら、絞り込んだ
太陽光発電所建設に適した用地には、当然、同業他社も目を付け、獲得に動いて
いますので、先手必勝、スピード勝負となります。そんな用地獲得の一コマを
ご紹介させていただきます。

 太陽光発電所建設に最適な、点在するも広範囲に及ぶ休耕田を地元仲介者に
押さえてもらい、二泊三日の出張旅行気分でいざ単身現地へ。空港を出て風光明媚な景色を横目に待ち合わせ場所へ移動するも、夕食の為、出発前に調べ上げた地元名物食堂のことばかり考えながら現地に到着。仲介者との名刺交換を終え、さあ案内して
いただこうかと思った矢先、
「大きな仕事が入って今月いっぱい出張になったので、今日はこれで。地権者の皆様には
今日伺うと説明してありますので。」

 お会いして2分後の衝撃。都合が出来てしまったことは仕方ない・・否、仕方なく
ないけれど、そんな事どうでもよく思えるフレーズ、「大きな仕事が入って」
それ、普通僕に言います?何時間もかけて来た取引先を相手にしたら、急用が出来て
しまい、位の言い回しが適切だと思いますが・・思いながらも口にはできず、
仲介者の車の特徴ある屋根が遠ざかり、見えなくなってふと我に返った次の瞬間、
衝撃波第二弾、「皆様に今日伺うと説明してある・・?」

 待ち合わせ場所に到着する前、ヒヤリとしたのは住所を車のナビに入れても行き先が検出出来ず、グーグルマップも同じ反応で、奇跡的に待ち合わせ場所に到着したこと。
今日、明日で訪問させていただく予定の地権者様は離れて点在する山間部の18件で、
ご案内を受けても今日半分訪問出来なければ最終日も動かねば、と行きしなに
気をもんでいたことが脳裏をよぎる。手元の資料は連絡先の無い、広範囲に及ぶ
地権者様住所一覧だけ。単身で今日中に全てのお宅を訪問するのは物理的に無理な上、
現状だと出張が軽い転勤になることは容易に理解できた。

 瞬時に携帯を取り出し、仲介者へ電話、直留守!それは知ってる!!待ち合わせに
遅刻する連絡を再三しても全て直留守だったから。車に飛び乗り、仲介者の車を追うも
土地勘のない町の道路はドラマでもお決まりの迷路。10分走って追跡を諦めると共に、
今日やれるところまでやってみようと、なんとなく腹をくくった。

 大卒で入社した証券会社では飛び込み営業部隊長で、片っぱしから呼び鈴を鳴らし、
怪訝な表情で出てくる初対面の人とコミュニケーションを図るのには自信があった。
幸運にも、一番近そうな地権者様のお宅住所をググると、当然的確な位置は検出できずも大まかな集落は示してもらえ、30分走行するうちに到着できた。手前のお宅の表札を覗くと目指した地権者様の名字が書かれている。「今日伺うことが話してあれば飛び込みでもないから気は楽だし、一丁やったるか!!」二軒先の少し広くなった道路に車を停め、先程確認した表札の家の前に立ってインターホンを押そうとした瞬間、驚愕の事実に気付いて手を止めた。

                     ~つづく~

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