2017年8月14日月曜日

ブログ「シリーズ:土地購入から太陽光発電所引渡まで(第13回)」


【第一章  ~産みの苦しみ~ その⑫】

好好爺は4本目のオロナミンCを飲み終えると、車を止めるよう促してきた。大ちゃん様のご自宅は、ジブリ物に出てくるこんもりとした雑木林の一角にひっそりと建っていた。好好爺の平等院別館の様に、屋根上の太陽光発電には適さないも、鬱蒼と繁るクヌギやコナラが外界の喧騒を遮り、緑のシェルターに包まれた木造の平屋は、子供の頃に憧れた、胸踊る秘密基地の様相を呈している。

「貸してくれますでしょうか…」

ヒグラシ合唱団はいつの間にか鳴りを潜め、草間に隠れた羽虫歌劇団の公演に引き継がれるインターバル、一時の静けさのなかで問いかけた心の声だった。

「俺が貸すって言ったら大ちゃんも貸さざるを得ねぇだろうよ」

「!!!」

突然の満額回答に息をのみ、切返す言葉が出てこない。


地元で太陽光発電を行う事業者に貸したという衝撃発表から早数時間。

粘りに粘り、3点差、9回裏ツーアウト満塁までこぎつけた折衝は、起死回生のフェンスオーバー、逆転サヨナラ満塁ホームランというフィナーレに。

うれしさと、心の底からの安堵感、感動、そして松井に導かれた友情。

8割方、好々爺の翻意は感じていたもののその瞬間を、しかも突然迎えたために様々な情緒が入交じり、不自然なまでに次の言葉が出なかった。

「先輩・・・」

精一杯押し出した第一声に、好々爺はしたり顔で

「任せとけよ、兄弟。」

お互いに、次の言葉はもういらなかった。



~つづく~

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